
改正建築士法は、公布の日(平成18年12月20日)から2年以内に施行されます。先月号で紹介した今回の改正の5つのねらいについて、今月号から5回に分けて一つずつ簡単に解説していくことにします。まず今月は、「建築士の資質、能力の向上」について説明します。
(1)定期講習の受講義務づけ
講習の実施にあたり、講習機関の登録制度が創設されました。これにより、建築士事務所に属する建築士等は、一定期間(3〜5年)ごとに、「国土交通大臣の登録を受けた者が行う講習」を受けなければならないことになります。登録・講習並びに登録講習機関に関する詳細は、今後省令で定められます。士法第22条に基づき、これまで建築士会や事務所協会が行ってきた指定講習会とは、期間・内容・主催者・強制力などが異なってきます。期間が短くなり、内容が専門分野ごとに細分化・高度化され、多くの主催者が現れることが予想されます。また、法令として明文化されることで、強制力は当然強まります。
(2)受験資格の見直し
建築士試験受験資格の学歴要件と実務経験要件の適正化を図るため、受験資格の見直しが行われました。大学において、「国土交通大臣の指定する建築に関する科目」を修めて卒業した者であって、その卒業後「建築に関する実務として国土交通省令で定めるもの」の経験を2年以上有する者とする等、学歴や実務経験の内容がこれまで以上に細かく規定されます。学歴に関しては、学科主義(所定の学科卒業)から科目主義(指定科目の履修)への変更、実務経験に関しては、原則として設計・工事監理業務に関する実務に限定する方向性が示されています。ただし、12月12日の参議院国土交通委員会の附帯決議には、「建築実務経験に関しては、建築士資格受有者の設計・工事監理業務分野以外での活動・活躍の実態を踏まえ、意欲ある有能な人材に門戸を閉ざすことがないよう配慮すること。」とあり、今後の省令の定め方が注目されます。

今月は、今回の改正の目玉とも言える「高度な専門能力を有する建築士による構造設計及び設備設計の適正化」について説明します。これは、先の耐震偽装事件の教訓をもとに、構造と設備の専門資格を新設し、一定の建築物について構造設計一級建築士、設備設計一級建築士による法適合チェックを義務づけるものです。
(1)構造設計一級建築士 要件:一級建築士として5年以上の構造設計実務経験+講習終了。または、国土交通大臣がそれと同等以上と認める一級建築士。「高さが20mを超えるRC造の建築物等、一定規模の建築物」の構造設計は、構造設計一級建築士が行うか、確認をし、その旨を構造設計図書に表示しなければならなくなります。
(2)設備設計一級建築士 要件:一級建築士として5年以上の設備設計実務経験+講習終了。または、国土交通大臣がそれと同等以上と認める一級建築士。「階数が3以上で床面積の合計が5,000uを超える建築物」の設備設計は、設備設計一級建築士が行うか、確認をし、その旨を設備設計図書に表示しなければならなくなります。
(3)要件に関する附帯決議 衆議院での附帯決議には「重要な資格として運用されている『建築設備士』について、設備設計一級建築士制度のもとにおいても、その有効活用と関係規定の適切な運用が図られるよう、特定行政庁、建築士関係団体等への周知徹底を図
ること。」とあり、既存の建築設備士資格の扱いに配慮がなされています。また、参議院での附帯決議には「法適合性の確認については、厳正な実施を確保するとともに、構造設計一級建築士又は設備設計一級建築士の偏在によって適合性確認業務の円滑な実施が妨げられることがないよう配慮すること。」とあり、今後実情に合った省令が公布されることと期待されます。

士法改正のポイント第 3 弾として、 今月は 「設計・工事監理業務の適正化・消費者への情報開示」 の概要を説明します。
(1)管理建築士の要件強化 管理建築士になるには、 建築士として三年以上の設計等の実務経験と講習の受講が義務づけられます。 (2)重要事項の説明義務 設計・工事監理契約締結前に管理建築士等による重要事項説明と書面交付 (工事監理の方法、 報酬額、 設計又は工事監理を担当する建築士の氏名等) が義務づけられます。 (3)再委託の制限 分譲マンションなど発注者とエンドユーザーが異なる一定の建築設計等について、 一括再委託が全面的に禁止されます。 (4)建築士名簿の開示 国土交通大臣は中央指定登録機関を指定し、 一級建築士の登録や名簿閲覧事務を行わせるようになります。 また、 都道府県知事は都道府県指定登録機関を指定し、 二級建築士と木造建築士の登録や名簿閲覧事務を行わせるようになります。 顔写真入り携帯用免許証の交付も考えられています。 (指定登録機関としては、 建築士会が有力候補になります。) (5)事務所登録簿の開示 都道府県知事は指定事務所登録機関に、 建築士事務所の登録や登録簿閲覧事務を行わせるようになります。 (指定事務所登録機関としては、 建築士事務所協会が有力候補になります。)
その他、 参議院での附帯決議には、 「建築士の業務報酬基準については、 建築士の業務の実態を踏まえ、 適宜適切に見直しを行うとともに、 その基準が遵守されるよう周知徹底を図ること。」 とあり、 実態を踏まえ報酬面から建築士制度改革を支えていこうとする姿勢が表明されたことは特筆されるべきだと思います。 今後の発注制度改革が期待されます。

士法改正のポイント第 4 弾は、 私たち建築団体に関する改正点の紹介です。
1. 事務所協会等の法定化及び協会による苦情解決業務の実施等
従前は士法上の 「指定法人」 として活動していた建築士事務所協会と建築士事務所協会連合会が建築士法の中で明確に位置づけられました。 そして、 その業務として、 「建築士事務所の開設者に対する指導・勧告等」 や 「建築主等からの苦情の解決」 という内容が明文化され、 建築主等から建築士事務所の業務に関する苦情について解決の申出があったときは、 当該建築士事務所の開設者に対し苦情の内容を通知して迅速な処理を求めることが義務付けられました。 苦情処理ではなく、 「解決」 のための対応を 「義務付けられた」 点が今回強化された点です。
2. 建築士会、 建築士事務所協会等による建築士等に対する研修の実施
事務所協会には、 建築士事務所の開設者に対して 「業務の運営に関する研修」 を、 また建築士事務所に所属する建築士に対して 「設計等の業務に関する研修」 を実施することが義務付けられました。 また、 建築士会には、 建築士全般の知識・技能の向上を図るため 「建築技術に関する研修」 を実施することが義務付けられました。 建築士事務所の所属建築士に対する研修を事務所協会に義務付けたところが新しい点です。
3.附帯決議
これらに関して、 衆参両院で同様の附帯決議がなされていますので、 参議院分を紹介します。 「建築士が自己研鑽を図るとともに、 建築士事務所が適正な業務の実施を行い、 専門資格者としての社会的使命と責任を果たすため、 関係団体による独自の研修・資格制度等の実施による加入率向上の取組を通じて団体の自立的な監督体制が確立されるよう、 関係団体等に対して所要の指導助言を行うこと。」 つまり、 建築士会は CPD や専攻建築士制度の実施によって会員数を増やし、 自立的な監督体制を確立せよ、 と言われているのです。 皆さん、 会員増強にご協力お願い致します。

士法改正のポイント最終回は、 施工分野、 即ち士法改正に伴う建設業法の一部改正です。
1. 重要施設における一括下請負の全面的禁止
建設業法には、 従来から一括下請負の禁止条項はありますが、 「元請負人があらかじめ発注者の書面による承諾を得た場合には適用しない」 という緩和規定が設けられています。 分譲マンションなど発注者とエンドユーザーが異なる工事の場合、 この規定により不正な抜け道が生じることになったため、今回 「多数の者が利用する一定の重要な施設等の工事について、 一括下請負を全面的に禁止する (緩和規定を適用しない)」 ということに改正されました。
2. 監理技術者資格者証の携帯が必要な工事を民間工事に拡大
これまで国や地方自治体等の公共工事のみに適用されてきた、 「監理技術者資格者証の交付を受けている者であって、 国土交通大臣の登録を受けた講習を受講したもの」 という監理技術者の選任要件を、 学校や病院等の重要な民間工事にも拡大することになりました。
3. 工事監理に関する附帯決議
衆議院での附帯決議に、 参議院で下線部の文言が追記され、 「建築物の品質を確保するためには、 工事監理業務の適正化を図ることが重要であることにかんがみ、 建築主に提出される工事監理報告書の記載内容を充実するとともに、 工事監理のガイドラインを提示・普及すること等により、 その実効性確保に努めること。」 という参議院附帯決議がなされています。 つまり工事監理報告書の記載方法等を含む工事監理ガイドラインを作成して、 建築物の品質確保を図る、 という方針が示されましたので、 今後ガイドラインづくりが具体化していくことと期待されます。
以上で、 士法改正のポイント 5 回シリーズは終了します。 来年末の改正士法全面施行へ向けて様々な政省令の整備が進められていく中、 改正議論のポイントだけは頭に入れて、 今何の議論がなされているのかを正確に捉え、 今後のパブリックコメント等に積極的に参加していただければ幸いです。
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