八女郡立花町在住 左官業
久保 稔


 八女福島重要伝統的建造物群保存地区の町家の修復工事を終え、ホッとしているところへ建築士会八女支部より「職人文化」に関して、職人として何か一言書いていただけないだろうかとの依頼がありましたので、私なりに日頃より仕事に関して思っている事を述べたいと思います。

 私は左官業を生業としています。日本の伝統的な工事に携わるなら日本独特の美、つまり曲線の美、不等辺の美、侘(わび)、寂(さび)、を理解すべきだと思います。特に日本には「縄勾配」という寺社仏閣の屋根勾配、城の石垣にみる勾配等、日本独特の曲線の出し方があります。職人であってもお花や、お茶等を理解すれば日本の美の真髄が少しは解かるのではないでしょうか。西洋の美は、直線の美、等辺の美でありますので、日本独特の美的感覚をもって仕事に当たりたいと思うわけです。自分の職業だけを理解しても建築全体の完成した姿を想像する事は容易な事ではありません。

 こんな事を言うと職人らしくないと思う人もいると思いますが、日本にも独特の文化財があります。それは紙、土、木の文化です。これはその時に応じて保存修理をしていかなければなりません。

 私の住む八女では、職人さん達は難しい仕事から逃げる傾向にあります。他の地区ではいかがでしょうか?

 私は、伝統的建造物の町家の修復工事に携わってみて、後継者の問題に危機感を感じております。日本に新しい材料が入ってくる以前の技術等を伝えていく使命と共に、技術を守っていきたいと思う若者が少ない事が残念でなりません。

 現代建築もおもしろいのですが、日本独特の紙、土、木の文化、又春、夏、秋、冬のはっきりした風土に育まれてきた建築修復に携わる事も、伝統の技術、修得と共に現代の短い工期、予算の少なさもあり、悩みながらも完成した時の達成感は、現代建築と比べる事は出来ません。古き事を学ぶ事により、新しい工法を編み出す歓びもあるのです。この新しい工法を若い人に伝えていく事も又、私たちの使命でもあり、伝えなければ技術の存続は途絶えてしまうわけですから。

 技術の存続についてですが、八女福島の町並みには、鏝絵が殆どと言ってよいほどありません。しかし施主さんは鏝絵をお願いされ困ってしまう事があります。八女福島の町並みには、鏝絵はあまり似合いません。しかし技術の存続も大事だし、考えた末に品を落とさない程度に漆喰彫刻をする時もあります。これはあくまで関係者の了解を得ての事です。

 最近のことですが、江戸後期の町家の修復工事で土間の「たたき(三和土)」という仕上げを行いました。福岡県建築士会八女支部、NPO八女町並みデザイン研究会の主催で伝統工法の体験学習として地元の福島小学校6年生30名が実際に土間のたたきの工事に挑戦してくれました。その指導をする機会をいただいたのですが、職人という仕事に携わっている人達がいる事を、若い人達にわかって頂けた事が本当に有意義なことだったと思います。これからは世代間の物事の考え方の相違を思いながらも若い人達に何とか技術、心の持ち方を伝えていくべき使命に燃えている次第です。

 一昔前は仕事さえ人並み以上に出来れば、世間の人は職人として認めてくださいましたが、今の世の中はやはり、心の持ち方、色々の職種の人達との連携を大事にして、一つの作品を完成させていくという心構えが大事ではないでしょうか。

 見た事も、した事もない仕事が来ても躊躇する事なく、人に教えを請い、又悩むことによって道は開け、技術の向上はあるのですから。そして次世代に伝えていく使命もあるのです。私達の世代はあまりにも替わりようの早さに戸惑いながら「待ってくれ」と追っかけている現状です。しかし、追っかけるだけではなく、じっくりと腰をすえて、先輩方が築いた技術、道具等も見直す時ではないでしょうか?それを土台として、技術も道具も現代に合ったものに改良すべき所は改良すれば良い事です。

 ただ守るだけが伝統ではありません。そして現代に於いては女性でも出来る所は何の職種にも積極的に進出してほしいと節に願っている次第です。

 私はこれからも健康が許すかぎり、“幻の湖ロプノール”のようにさまよいながらも、「完全の不完全の位置」に少しでも近づけるように努力していきたいと思っております。とりとめもない事を書きましたが、職人は書くのは苦手ですので職種に免じてお許しください。

渡辺邸

田中邸